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辰巳八景 ( 山本一力 )

 山本一力著「辰巳八景」を読んだ。
 気持ちの良さが印象に残る八つの情景。

辰巳八景-山本一力
辰巳八景
著者:山本 一力
出版社:新潮文庫
出版日:2007-09
Amazon.co.jp で詳細を見る

 お気に入り度:★★★★

 縄田一男氏の解説によると、本書に収録されている八編の物語と題名は長唄『巽(辰巳)八景』に依っているという。
 ”八景”は、
『永代の帰帆』、『八幡の晩鐘』、『仲町の夜雨』、『佃島の落雁』、『新地の晴嵐』、『洲崎の秋月』、『櫓下の夕照』、『石場の暮雪』
 のことで、それぞれ対応する題名は、
『永代橋帰帆』、『永代寺晩鐘』、『仲町の夜雨』、『木場の落雁』、『佃島の晴嵐』、『洲崎の秋月』、『やぐら下の夕照』、『石場の暮雪』 となっている。

 本書を読み始めると、さっそく山本氏の作品に欠かせない矜持を持った人物が登場し、山本ワールドが展開される。
 しかし読み進めていくにしたがって、本作品群にも描かれている矜持、心意気、威勢の良さといったものに少々窮屈さを感じだし、食傷ぎみになってしまった。

 そのため少々読み進める速度は遅くなってしまったが、それでも読み続けられたのは、ラスト数ページの部分に描かれている登場人物たちの姿が気持ちのいいものであり、これも山本作品に欠かせない人情で締めくくられていたからである。

永代の帰帆

 公儀に楯突いた赤穂浪士たちを嫌う大洲屋茂助が見た、わずか十六にしてみせる切腹の覚悟と誰もにその姿を褒められている大石主税の心の深淵。
 武士の姿を見せる大石主税に垣間見た『十六の若者』の姿に、茂助は己の過ちに気づく。

永代寺晩鐘

 二家に縁談を申し込まれているおじゅん。
 香取屋は身代の大きさをひけらかし断るつもりだったが、香取屋の倍以上の身代でありながら笠に着た振る舞いは見せない増田屋の跡取りには人柄にぬくもりを感じさせる。
 しかし母には釣り合わないと反対され、どうしても心が決まらない。
 そんなとき、脇を駆け抜けていった若者たちの汗のにおいは、おじゅんの迷う心に本当の思いを気づかせてくれた。

仲町の夜雨

 おこんになかなか子が授からないために、政太郎はおこん公認の妾・おみよを囲った。
 その後、産婆からもう上がりだと告げられたおこんは、どうしても子宝が欲しい政太郎のために、子を儲けて欲しいと頼むつもりでおみよの元を訪れた。
 そこでおこんは、なかなか子を儲ける様子もなく敵意を向けるおみよの、心の奥底にある切ない思いに触れた。

木場の落雁

 さくらは行儀見習い先で、吉野の厳しくも気品に満ちた所作と美しい言葉遣いに、尊敬を覚え、その真似をしはじめた。
 藪入りの日、恋仲で大工の弦太郎に遊びに行った先で、物言いや目つきを咎められたさくらは、母に弦太郎と一緒のときにもその物言いだったのかと笑われた。
 母に言われたことに得心がいかなかったさくらだったが、川のほとりで遊んでいる子供の会話を聞いて、自分の滑稽さに気がついた。

佃島の晴嵐

 死んだ母の願いで架けられた新田橋は、火事で焼け落ちた。
 町医者で人々から尊敬されていた父は、その火事で死に三年が経つ。
 かえでは、火事の傷跡が消え、町が立ち直っていくのを喜んでいたが、その傷跡が消えるのは父の命を奪った痕が消されるようでつらかった。
 人には言えない気持ちを胸の奥底に抱え、黒船橋のたもとで佇んでいたかえでは、そこで父を見つけた。

洲崎の秋月

 大事なときに役に立たないと常磐検番の女将から小言を芸妓の厳助は、若い芸妓の失態の場を機転を利かせて取り繕った。
 厳助の株は上がり、その場に居合わせた大店の跡取りから落籍が申し込まれたが、返事を引き延ばしていた。
 厳助は、自分の気持ちを言い当てた洲崎検番の太郎の身の上を聞くうちに、おのれの道を見つける。

やぐら下の夕照

 手紙のやりとりから知り合った良三と弘衛。
 お互い淡い気持ちを抱いて永代橋で会ったが、一度会ったきり家の事情で会えなくなり、手紙のやりとりもなくなった。
 時が過ぎ互いに所帯を持った二十七年後、弘衛の元に、良三から永代橋で待っていると手紙が届いた。
 いつかきっと、また手紙が届くと信じていた弘衛だったが、良三は二十七年前の自分に会いに来るのだろうと思うと、会いに行くのをためらった。
 橋へ行くのはやめようと決め、仲町のやぐら壁に寄りかかった弘衛は、白髪まじりの良三から声をかけられた。

石場の暮雪

 絵草子作者を目指している一清は、『宮本武蔵』を題材に剣術試合を中心とした武蔵の話で勝負したいと思っている。
 しかし版元の手代からは女がらみの話がないと……と原稿を突き返された一清は、偶然立ち寄った履物屋でそこの娘に出会った。
 それから物の見方が変わった一清は、話の中に履物職人の女を登場させると、それまで止まっていた筆がなめらかに動き出した。
 版元からは褒められ、履物屋の娘への思いが募るばかりの一清は、娘へことわると、毎日同じ内容の飾り気のない手紙を届け始めた。
 朴とつだが誠実な人柄に惹かれだした娘。
 以前から履物屋の得意先から縁談を申し込まれていた娘は、はっきりとした返事をしてこなかったが義理もあり見合いをすることにした。
 見合いの四日前、一清は雪駄の修理とともに手紙を届けに来た。手紙に書かれたこれまでと違う一文は、娘が待ち焦がれていたものだった。

『永代寺晩鐘』、『やぐら下の夕照』、『石場の暮雪』は純愛の色をなし、矜持、心意気など少々堅苦しい雰囲気のなかにあって、本書全体に
 気持ちのいいさわやかな余韻を残している。
 なかなか進まなかったページ数も、『洲崎の秋月』になると堅苦しさより人間臭さの方が印象に残るようになり、本書を読み終えると『良かった』と読了感に浸れることができた。

 ところで八編のうちのどこかに、本書の解説をしている縄田氏と奥さんのなれそめをモチーフとした作品があるらしい。
 二人のなれそめを聞いた山本氏が材としたようだが、どの作品なんだろう。
 個人的に『やぐら下の夕照』、『石場の暮雪』のどちらかだと思うのだが。

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星新一と藤沢周平中毒者。
ミステリー・サスペンス、ホラー、歴史人物、ユーモアなど幅広く読んでいます。

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