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ゼロの焦点 ( 松本清張 )

 松本清張著「ゼロの焦点」を読んだ。
 なぜ夫と打ち解けていない妻が夫の失踪を追うのか。制作の謎を楽しませてもらった。

 お気に入り度:★★★

あらすじ

 板根禎子(いたねていこ)は人に薦められるまま、鵜原憲一(うはらけんいち)と結婚した。
 鵜原は広告社に勤務する北陸方面の出張主任で、月に二十日は金沢、十日は東京で過ごす生活をしている。
 しかし、今度の出張を最後に東京の本店勤務となる予定である。

 禎子は鵜原との新婚旅行に北陸を希望した。
 夫が二年の間、月に二十日も生活している土地を見ておきたかったのだ。
 ところが鵜原は、いかにも飽き飽きしているというように別の場所がいいと言った。
 その言い方には拒絶めいた響きがあった。

 新婚旅行から帰って十日後、鵜原は最後の出張に発った。
 夫は一週間後に帰ってくる。
 夫には多くの未知があったが、それも夫が帰ってくれば溶けるはずだ。
 そして夫の持つ禎子の未知も溶け、両方の溶解が交じりあい、世間の夫婦のようになるだろう。
 しかし、十二日には帰れるという便りを最後に、夫の消息は途絶えた。

書評

 徐々に明らかになっていく夫の失踪の謎や、夫の失踪にまつわる新たな事件の発生など、物語に飽きることなく楽しめた。
 それだけに、一部の犯行動機の弱さ、妻・禎子の鋭すぎる推理、妻や義兄、会社の同僚本人が鵜原捜索を労力かけていること、などの疑問が残るのは残念だった。

 その一つに、なぜ禎子を夫と打ち解けていない妻という設定にしたのか、という疑問がある。
 普通なら警察に任せてしまうのに、夫に心を開ききれていない妻が、金沢に長期滞在し夫の消息を探すだろうか。
 もし夫の消息を根気よく探すなら、情の通い合った妻の執念としたほうが自然だ。

 禎子の行動を肯定するとすれば、彼女は情で行動してはいないだろう。
 とすれば、まだ知らない夫の秘密を知りたい、失踪の真相を知りたいという好奇心があったのではないか。
 でなければ、夫がかつて立川で警察官をしていたと知って、わざわざ立川警察署まで夫の過去を聞きに行くはずはない。

 ところが禎子の好奇心は、真相に迫る推定に到ったとき、犯人への同情を含むものに変わった。
 情の通い合った妻という設定なら、理由はどうあれ犯人への憎しみが湧くはずで、同情心が湧けば不自然だっただろう。
 とすれば、作者は犯人への同情と、同情せざるを得ない凶行の背景を描きたかったに違いない。
 そのために、禎子を夫と打ち解けていない妻にしたのだろう。

 この結論は、社会派ミステリーを書く松本清張だから当たり前かもしれない。
 しかし、この人物設定の工夫に気づいたことは、初めて読んだ清張作品に対して、長く読み続けてきたような親近感を感じた。

 映画「ゼロの焦点」感想を読む

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星新一と藤沢周平中毒者。
ミステリー・サスペンス、ホラー、歴史人物、ユーモアなど幅広く読んでいます。

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