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夜の橋 ( 藤沢周平 )

 藤沢周平著『夜の橋』を読んだ。
 暗さの残る夜の中に感じられる暁の匂い

 お気に入り度:★★★★

夜の橋 内容紹介(裏表紙より)

 無頼の男民次の心の中にふと芽生えた人掬いの情愛――雪散る江戸深川の夜の橋を舞台に、男女の心の葛藤を切々と描く表題作ほか、多彩な人間模様を哀歓込めて刻む自選傑作時代小説8編。

 武家ものから市井ものまで、人々の哀歓を描いた短編集。
 登場人物の憂いが感じられる作品が多いものの、その結末はさっぱりとしていて、心地よい読後が訪れる。まだ暗さの残る夜の中に、暁の匂いを嗅いだ気がした。
 収録された作品の中で気に入っているのは【泣くな、けい】だ。
 苛酷な仕打ちを受けながらも、奉公先の相良家のために健気に活躍する女中を描いていて心地よかった。

鬼気

 奉納試合は、今年も雨宮道場の勝ちに終わった。
 三人の高弟、徳丸、鳶田、平野が、酒の席でオダをあげながら到った結論は、向かうところ敵なし、である。
 ところが、細谷久太夫の隠れたる剣の名手の噂が出ると、三人の興味は、細谷久太夫の本当の力量に移るのだった。

 細谷久太夫にまつわる、名手であるようなないような怪しげな噂が見事で、気持ちはたちまち細谷久太夫の真の腕前に向かう。
 そして読者の期待を裏切らず、細谷久太夫の力試しを行う三人の行動に喝采。
 もう名手だとかそうではないとか、という評価を越えた結末がよかった。

夜の橋

 民次が裏店に戻ると、別れた女房のおきくが来ていたことを聞いた。
 博奕に手を出すようになった民次を恐れて逃げ出したおきくだったが、働き始めた場所を知らせてきた。それに対して民次は、働く場所を移るときは連絡するようにと言ってある。
 きっとそのことだろうと思って働いている場所に行ってみると、おきくは「嫁にもらいたいという人がいるんですよ」と言った。

 別れても、どこか心の底でつながっている夫婦愛を描いた作品。
 民次を気にしているような、新しい男に気持ちが傾いているような、おきくの移り動く心の様子がいい。
 そんなおきくの心に動きを感じ取りながらも、おきくのためを考えて命をもはる民次の心意気も気持ちがいい。

裏切り

 家に帰ると、いつもなら家にいるはずの女房おつやがいなかった。
 心配して働き先を訪ねてみると、今日は休みだといい、時どき休んだこともあったらしい。
 翌日、おつやは男と逃げたと思っていた幸吉の元に岡っ引が訪れ、おつやは死んだと言った。

 男が知り得ないような女の一面を感じさせる作品だった。
 おつやの意外な一面は単純な男にとってもの悲しいものだが、その一方で、男を失望させない女も描かれていることで、妙に救われる気持ちになる。

一夢の敗北

 米沢藩内で一刀流の達人として知られていた吉田次左衛門一夢の、ある敗北を描いた作品。
 放浪の力士屏風島を斬り倒した話が、一夢の凄さを物語っている。
 力士は、大力のために一度捕まってしまうと勝ち目がない。そのため一気に切り倒さなければならないが、一夢は一刀で切り倒せる一瞬を見極めて斬った。
 その頃の米沢藩は疲弊しており、上杉治憲(のちの鷹山)と奉行竹俣当綱は藩政の大改革を始め、その中に、江戸の儒細井平州を招聘するものがあった。
 改革は保守派による七家騒動が起きるなど混乱を極めており、平州招聘にも排撃の空気が高まった。
 すると、一夢は「そんなに藩のためにならなん人間なら、斬ればよい」と講義所松桜館へ行き、平州と対面するが……。
 達人だからこそ負けた、一夢の負けっぷりが実に気持ちいい。

冬の足音

 一度、時さんに会ってみよう。
 叔母のおよしが、また縁談を持ち込んできたのを潮に、お市は不意にそう思った。
 時次郎は、錺職である父の一番弟子で、お市の婿にという話が持ち上がっていたが、家の金を取ろうとしたところを見つかって、家にいられなくなったのである。
 しかし時次郎からもらった簪が、お市の心を今だにとらえていた。

 夫になるかもしれない男に心をときめかせていたお市の、気持ちのけじめの後に訪れた心の様子を描いている。
 お市には冬の足音が訪れたが、やがて春が来るような気分にさせられた。

梅香る

 保科家に嫁いだ娘志津が、ぐあいが悪いからしばらく実家で休ませていただきたいといって帰ってきた。
 奥津兵左衛門は、またかと不機嫌に思った。しかし、娘のふてくされたような行動には、思い当たらないこともない。
 志津には婚約のさだまった相手がいたが、ある事情から先方の江口家の申し出で破棄された。
 その事情は、志津には知らされていないのである。

 相手のためを思って教えなかったことが、逆に相手の気持ちを留めさせてしまうこともある。
 本当のことを教えるには、説明と時期が大切な場合もあるのかも知れない。
 真実と周囲の気遣いを知った志津の様子には、まだ寒さが少し残る初春のような清々しさが感じられた。

孫十の逆襲

 野伏せりが現れた。美濃から山越えしてきたと思われる一団は、近くの村を襲い、食い物を奪い、女を犯して住み着いた。
 この村にやってくるのも時間の問題である。
 孫十は、この村でただ一人戦に行ったことがあるという理由で、野伏せり対策の指図を任されたが、若い頃に戦に行ったといっても、恐ろしくて逃げ回ってばかりいたのである。

 必ずやってくるだろう野伏せりと、戦で逃げ回っていた孫十率いる村の連中が、どう戦うのかが見物の手に汗握る作品。
 老いぼれの孫十の心の支えは、“戦から帰ってきたたくましい帰還兵”だったが、家族は孫十が戦場で必死で逃げ回っていたことを知っていた。
 それを知った孫十の意地も見所だった。

泣くな、けい

 御納戸奉行配下の相良波十郎が研ぎに出した、藩の宝物の短刀が消えた。
 実は、研ぎ終えた短刀を引き取った亡き妻から不倫相手の手に渡り、そこから刀屋に売り飛ばされていたのだ。
 逼塞を命じられた波十郎に残された道は、妻からしばしば折檻を受け、波十郎からも手込めにされた女中のけいに、短刀を買った武家から買い戻してきてもらうことだった。

 苛酷な仕打ちを受けながらも、相良家のために、短刀を取り戻すべく奔走するけいの姿がきもちいい。
 しかし、けいの受けた仕打ちが許せない人だと、結末は納得いかないと思うかもしれない。

暗い鏡

 姪のおきみが殺された。
 おきみは、両親を亡くしてから、伯父の政五郎の家で一年ほど暮らしたが、奉公先が決まって出ていった。それからは、たまに顔を見せて話をしていくという交流が続いたが、二十七になるまで女中奉公して暮らしてきたという以上のことは何も知らなかった。
 ところが、政五郎におきみの死を知らせに来た岡っ引きは、おきみが身体を売って暮らしていたことを告げたのだった。

 おきみの生きてきた足取りから明らかになっていくおきみの孤独と、まっとうに働く伯父を心の支えにしてきたおきみに哀感を誘われる。
 人生の底に堕ちてしまう前に、まぜ父の兄である政五郎を頼らなかったのか。
 おきみが幼い頃に見た、父と父の兄である政五郎の関係が、おきみを孤独にしたのかと思うとやるせなくなってくる。
 その悔恨が、政五郎をおきみを殺した男を捜し出すという行動に駆り立てたのかも知れない。

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星新一と藤沢周平中毒者。
ミステリー・サスペンス、ホラー、歴史人物、ユーモアなど幅広く読んでいます。

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