藤沢周平著「凶刃―用心棒日月抄」を読んだ。
暗躍する幕府隠密と第二嗅足組を操る藩内の黒幕、江戸嗅足組の三つ巴の闘い。藩存亡の秘密が十六年ぶりに江戸を訪れた青江又八郎を襲う。過去との別れが寂寥感を誘う深遠なミステリー時代小説。
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★★★★あらすじ
前藩主の兄寿庵保方の事件から十六年後、三人の子に恵まれ近習頭取となった又八郎は、半年間江戸へ出府することになった。
その又八郎は、嗅足組の頭領榊原から、藩隠密嗅足組の解散を江戸嗅足組の者に伝える密命を帯びていた。
ところが又八郎の出府前に榊原は殺され、卒の者で構成される第二の嗅足組の名簿が消え、又八郎も何ものかに襲われた。
犯人とその狙いが不明のまま十六年ぶりに江戸を訪れた又八郎を待っていたのは、藩存亡に関わる秘密と、幕府隠密、第二嗅足組、江戸嗅足組の三つ巴の闘いだった。
書評
用心棒日月抄シリーズ第四弾。
第三弾「
刺客―用心棒日月抄」から十六年、四十半ばの青江又八郎は近習頭取となり、子が三人。前にせり出した腹は月日の流れを感じさせるものの、用心棒日月抄の世界に変わりない。
しかし前三作とは色合いがまったく異なる作品となっている。
というのも、これまではユーモアによる明るさと、用心棒や藩命の遂行によるサスペンスが魅力で、第二弾「
孤剣―用心棒日月抄」の解説者向井敏氏の言葉を借りると『用心棒日月抄シリーズは端正でありつつ軽快、緊張を秘めつつのびやかという美徳を持つ』作品であったのだが、本作品ではこの美徳は息を潜め、哀惜を誘うもの悲しさと綿密に編み込まれた深遠なミステリー作品となっているからだ。
その哀惜を誘うもの悲しさの最たるものが、十六年前の貧しくも楽しげで自由だった用心棒時代との別れだろう。
ユーモアの代名詞であり、用心棒時代の象徴だった細谷源太夫と吉蔵の十六年後の姿、用心棒を始めた頃の又八郎を彷彿とさせる初村賛之丞の行く末といった、登場人物の様子に加え、第一弾「
用心棒日月抄」第一話の犬の用心棒の頃に植え付けられていた事件の発端の解決すらも、過去との別れを想像させられる。
個人的には、少なくとも『あの頃は楽しかったな』と一緒に笑える存在を残して置いて欲しかった。
変わりない江戸嗅足組頭領の佐知との交情が、心に開いた穴を埋める救いになっているものの、用心棒日月抄の世界に必要なのは、子だくさんでがさつな髭の男であり、狸面でしたたかだが律儀で情のある男なのである。
寂寥感を伴う深遠なミステリーである本書は、文句の付けようのない作品だが、用心棒日月抄シリーズとしては少々不満が残る。
そういう訳で「凶刃―用心棒日月抄」は前三作とは別扱い、番外編と思うことで自分を納得させたい。
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第一弾:
用心棒日月抄第二弾:
孤剣―用心棒日月抄第三弾:
刺客―用心棒日月抄第四弾:凶刃―用心棒日月抄