藤沢周平著「天保悪党伝」を読んだ。
悪人でない六人の悪党。
何故か憎めない人がいる。悪いことをしているのに嫌いになれない。ついつい気になってしまう、そんな人物。
本書に登場する六人も、そんな人物たち。彼らは『天保六花撰』という講談で語られ、歌舞伎で上演されている悪党六人である。
彼らの悪事は、強請、辻斬り、盗み。身近にこういう輩がいると、たまったものじゃない。
作者は、そんな彼らを憎めない悪党、悪党だけど悪人でない人物として描き出した。
根っからの悪人でないことを、納得させてしまうほど、彼らの悪党であるゆえんを精緻に巧妙に描写しているのだ。
それでいて、悪事を肯定していないから、彼らが悪事を働いても憎めない気持ちを持たされつつ、道徳的に違和感を感じさせない。
身分の低い者たち、貧しい者たちが、なかなか裕福になることの難しい江戸時代。
何かで気分を晴らさなければ、多少なりとも悪事をしなければ、生きていくにも辛かっただろう。
その気晴らし、ちょっとした悪事が高じて、足を踏み外してしまった、そんな六人の物語が本書である。