吉田戦車著「吉田自転車」を読んだ。
馬鹿な自転車エッセイは、ナイスバイク号との蜜月の日々を綴ったものだった。
お気に入り度:★★★★
吉田戦車のイラストエッセイ『なめこインサマー』があまりにも面白かったので、同じくイラストエッセイの『吉田自転車』を手に取った。
本書は、主に調布界隈を、マウンテンバイク『ナイスバイク号』でぶらつきながら綴った自転車エッセイ集。
自転車での散歩をポタリングと言うらしいのだが、著者のポタリングは八方へと広がり、珍エピソードを量産する。
中年男三人組で寄った喫茶店。二つの甘い物を味見しあう男たち。女性店員は顔をそむけた。
多摩川サイクリングロードを満喫したあと、深大寺温泉に向かった。口ずさむ『北の国から』のテーマソングが洞窟の湯に響きわたる。
我が子の補助輪外し大作戦。子供を見守る著者は、歩道でぐにゅっとしたものを踏みつけた。激しく動揺。
ふらりと立ち寄った『三鷹の森 ジブリ美術館』。しかし予約制の壁に阻まれ、しょんぼり家路につく。屋上にそびえ立つラピュタロボのあざけりを感じながら。
著者は岡本太郎の庭を覗いたとき、「ばかだ、ばかの庭だ!」と感嘆したことがあるそうだ。
このエッセイを読んだとき、そんな感嘆の「ばか」を感じた。
さすがに「ばかだ、ばかのエッセイだ!」とまでは思わなかったものの、とにかく収録の珍エピソードには、ばかから放たれるオーラのようなものが感じられた。
そんな個性的なパワーを感じる一方で、哀愁のようなものを感じるのはなぜだろう。
あとがきで著者は語る。
「自転車には『ありがとう自転車、一生いっしょにいようね』と素直に言える」
文庫本あとがきで著者は語る。
調子が悪くなり廃車を決めたものの、幸いにも友人に貰われていったナイスバイク号。
「彼に乗られたナイスバイク号を見ると、嫉妬に近いような気持ちが生まれてきて、直視するのに耐えかねて目をそらしたりする」
昔つき合っていた彼女が、別の男と仲良く歩いているのを見つけ、胸に広がる嫉妬のようなもの。
著者はそれと同じ感情を自転車にも感じた。
このエッセイに漂う哀愁の理由が分かったような気がした。
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吉田戦車著「なめこインサマー」を読んだ。
「伝染るんです。」の作者吉田戦車の虚実入り交じったシュールなエッセイ。
お気に入り度:★★★★
ファミレスでの昼食。
著者はなめこそば、娘はお子さまランチ。
食べ終わったあとに、娘は悲しそうな顔で言った。
「私もなめこが食べたかった!」
著者は娘に言った。
「じゃあ今日のおやつはなめこにしよう」
娘はニッコリうなずいた。【なめこインサマー】
これが、このイラストエッセイ集のタイトルの由来である。
こんな常識の枠を外れたエッセイが、この本には詰まっている。
それもそのはず、著者はシュールすぎるマンガ「伝染るんです。」の作者なのである。
■大まかな目次
* * *
まずは『ニューボンボン』
この意味不明のタイトルについては、各自好きに考えて欲しいとのことだ。
そして内容の方は、「伝染るんです。」のエッセンスがふんだんに感じられる、虚実入り交じったもの。
「どこまで本気にしていいのか」、「そんなものをエッセイと呼んでいいのか」という疑問はさておき、とにかく面白い。
例えば……。
格闘技の試合を見に行き、あまりにも腹が減った著者。
隣席には、試合に夢中で食べかけの弁当が疎かになっている青年。
著者は横目で確認しつつ、シューマイをすばやく盗み取ると、彼の弁当には穴がポッカリと空いていた。
はやりの『キントッシュ※』を買った著者。
ニューボンボンの原稿を原稿用紙三枚分ほど書き、フロッピーディスクに保存した。
次の日、キントッシュの電源を入れ、フロッピーを入れた。
「このディスクは破損しています」
もう一度入れ直してみる。
「このディスクは破損しています」
※『キントッシュ』とは
マクドナルドの略称マックと区別するために考案された、マッキントッシュの略称のこと。
* * *
『吉田戦車の珍ごはん』は娘との珍ごはんエピソードが中心。
表題作【なめこインサマー】を始め、珍ごはんを通して父娘の心暖まる触れ合いが……あったかどうかは分からないが、いずれにしても面白い。
例えば……。
4歳の娘との晩ご飯に、パンと目玉焼きを用意した。
酒の肴に煮こごりも。
すると、獲物を狙う豹のような目で煮こごりを見つめる娘。
「それなーに。食べてみたい」
スプーン一杯を娘に渡すと、なんとパンに塗り始めた!
おじやを冷やして食べる夏の食事。
「のり巻きごはんにしたい」と言いだした娘。
さらにこう続けた。
「おすし屋さんみたいに出してほしい」
■注意■
本製品は非まじめな方を対象としております。
まじめな方がお試しなる場合は、血圧が上がらぬよう十分ご注意ください。
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地元のブックオフで中古本を購入した。
剣客商売は『剣客商売〈15〉二十番斬り』ですべてそろった。
剣客商売は全部105円でそろえたことになる。
吉田自転車は『伝染るんです』を描いた漫画家・吉田戦車の自転車エッセイ。
先日買った『なめこインサマー』が面白かったので、続いて買ってみた。
| No. | 著者 | 作品名 | 価格 | 書評 |
|---|---|---|---|---|
| 計 | ¥210 | |||
| 01 | 池波正太郎 | 剣客商売〈15〉二十番斬り | ¥105 | 書評を読む |
| 02 | 吉田戦車 | 吉田自転車 | 書評を読む | |
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宮田珠己編「ふしぎ盆栽ホンノンボ」を読んだ。
道教的宇宙観に基づいてつくられているという、ユルい雰囲気漂うふしぎ盆栽ホンノンボの正体とは。
お気に入り度:★★★★
まず鉢に水を張る。
そこへ岩山に見立てた石を置く。
つぎに、その石の所々に植物を植える。
仕上げとして、いい加減な造形の人や動物、建物のミニチュアを置く。
ベトナムの盆栽ホンノンボの作り方だ。
全体的にユルい雰囲気が漂っているからといって侮ってはいけない。
ホンノンボは道教的宇宙観に基づいてつくれれており、
碁を打つ老人は寿命を司る神を表象し、
囲碁は時の流れの外にある桃源郷のシンボルであり、
虎やワニは……。
こうして著者は、ベトナムで出会ったユルい雰囲気漂う不思議な盆栽ホンノンボの虜となった。
掲載されているホンノンボの写真を見ていくと、ユルい雰囲気と不思議な時間の感覚に自然と癒されていく。
餅が膨らんだような人間あり、動物と一体化した人間あり、まったく迫力のない虎やワニあり。
造形がいい加減なリアリティーのないミニチュアが、リアリティーある景色に浮かび上がる不思議な光景。
このアンバランスなユルさがなんともたまらない。
そして時間の呪縛からの解放と肩の力が抜けるような感覚。
自分を投影する生き物のミニチュアが止まっていることで、悠久の時間を感じているのだろうか。
ところが著者は、癒しとか、なごみとか、そんなものは二の次。
ホンノンボに求めていたのは探検のワクワク感であり、いい加減で、ごった煮的で、思わず笑ってしまいそうなホンノンボを探していたという。
「ホンノンボの感じ方は、人によって違うらしい」
そのことに気づいた著者は、一つの結論に至る。
「ホンノンボは自分だけの桃源郷に思いを馳せるもの」
よく考えると自分は、貸出期限のある図書館や、運行時刻のある電車が好きじゃない。
本を借りてきたあと、まず熟成させ、気分を高めてから読みたい。
電車の到着時刻を逆算して発車時刻を見極め、それに遅れまいとするのが窮屈でたまらない。
そんなわがままな自分が、ホンノンボに時間の呪縛からの解放や悠久の時間を感じたのは、自分のために流れる時間を感じたからなのだろう。
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武田花著「仏壇におはぎ」を読んだ。
自然体で、自分の時間の流れを持っている著者は、まるで猫のようだ。
お気に入り度:★★★★
毎年十二月に、動物写真家・岩合さんの猫カレンダー目当てで買っているアサヒカメラ。
残念ながら、今年の2012年1月号には猫カレンダーが付いていない。
毎年楽しみにしていた岩合さんの猫が見れないとは……。
と、気がつけば猫関連の本を二冊買っていた。
一冊は、岩合さんの猫写真集『きょうも、いいネコに出会えた』
もう一冊は、写真家・武田花さんのフォトエッセイ『仏壇におはぎ』
このフォトエッセイは猫中心のものではないけど、猫がたくさん映っている。
写真はすべて白黒ばかりだけど、色がついて感じられるから不思議だ。
もしかしたら、淡々と綴られたエッセイが写真に色をつけているのかもしれない。
子供の頃、乗った貸し馬の曳き綱が外れた。馬は崖へ向かって早歩き。そして崖っぷちで草を食べ始めた。
バイトで老人性痴呆のトメさんの世話をする。トメさんを手伝って作ったのは市販品五、六倍の巨大おはぎ。
飼い猫が病気かもしれない。猫と仏壇の前に座り、猫の前肢を合わせて「どうぞ助けてください。南無阿弥陀仏」
子供の頃、学生時代、大人になってからのエッセイ、どれもマイペース。
常に自然体で、自分の時間の流れを持っているのは、まるで猫のようだ。
毎年猫カレンダーを見たときのように、癒された気がした。
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